第十六篇 血染めのシルフィ
著者:shauna
落ち着け・・・落ち着け・・・
そう自分に言い聞かせながらシルフィリアは状況を整理しようと頭を働かせた。
シュピアによって封じられたのは“エクシティウム・エプタ”の内の3つ“星光の終焉(ティリス・トゥ・ステラルークス)”、“絶対守護領域(ミラージェ・ディスターヴァ)”、“幻想なる刻の扉(イリューシオ・ホーラフォリス)”と彼が知っている限りの古代魔法。つまり、“白き死の大地(ビェラーヤ・オブ・アルビオン)”、“白き死神(ビェラーヤ・スミェールチ)”、“白帝(エンプレス・オブ・アルビオン)”主要なところでいえばこれぐらい。
だが、問題なのは魔力の制限まで受けている点。体内に感じる残りの魔力を考えると、おそらく現在自身の力はサーラより少し弱いぐらい。
魔力制限(リミッター)をこれ以上解除することは解除条件から不可能。
そして、敵の手には聖杯がある。
考えれば考える程、ドツボに嵌るような気がする中でシルフィリアは必死に策を巡らす。勝てる方法ではない。なんとか対等に戦える方法を。
しかし、そんな中で対面していたシュピアが再び聖杯を掲げた。
それにシルフィリアの顔も必然と苦くなる。
今度は何をしようというのか・・・
「聖杯よ・・・2つ目の願いだ。」
シュピアが高らかに叫んだ。
「今、この世界“蒼き惑星(ラズライト)”において、最も強力な宝具をわが手に与えよ!!」
それを聞いてシルフィリアは必死に願う。
お願い。失敗してくれと・・・
まるで女神の施しを受けるように必死に目を閉じ、俯く。
が、しかし・・・
現れたスペリオルを見てシルフィリアは絶望することになる。
掴んだのは真逆。死神の施し。
聖杯のほぼ真上に出現した金色の光。
まばゆい光の中にあるモノが浮いていた。
剣だ。
中世の物語とかによく登場しそうなロングソード。
瑠璃色と金で装飾された柄に白銀の刃を持つ、最高に美しき剣だった。
しかし・・・
その美しさとは裏腹に、シルフィリアはだただた絶望する。
「あれは・・・」
そう・・・シルフィリアはその宝具の名を知っていた。
「“エクスカリバー”・・・」
シュピアは即座にショルダーキーボード“アルトルネ”を地面に捨て、空いた手で剣に手を伸ばす。剣もそれに従うように静かにその手へと納まった。
「素晴らしい。」
シュピアがニヤつく。
「これがかの“エクスカリバー”・・・予想以上の美しさ。そして、体に流れ込むこの脈の力強さ。すごい・・・他のスペリオルなど比較にもならない!!!」
最悪のシナリオが展開されてしまった。
エクスカリバー・・・それは“果て無き黄金の理想郷(アヴァロン)”に封印されている宝具の内でも聖杯と並ぶ最高宝具の片割れ。
聖杯が作り出すスペリオルとするならエクスカリバーは破壊するスペリオル。持ち主に絶対の勝利を約束する究極の聖剣。
それを完全に扱えるのはこの世界において・・・長き歴史の中でもただ一人。
円卓の騎士(レオン・ド・クラウン)の第1席にして、永久欠番となっている最強の騎士。
“アーサー・ペンドラゴン”
彼以外にはいないはずだった。だが、シュピアはおそらく使えてしまう。聖杯の魔力によって・・・彼と寸分違うこととなくその力を。
戻ってきたサーラ達に向かって再び
「何をしているのです!!!早く逃げなさい!!!」
「嫌だ!!!ここに居る!!!」
その言葉にシルフィリアが目を見開く。
「シルフィリアさんに全部任せて自分達だけ逃げるなんて嫌だ!!私だってなにか出来ることがあるはずだから!!!」
そんなことを言ってる場合じゃ!!
「あなた達が居ても邪魔なだけです!!速く立ち去りなさい!!!」
普段使わないような酷い言葉を使って牽制するも、今度はファルカスが反論する。
「シルフィリア。戦いはあんたに任せよう。だけど、ヤバくなったらすぐにでもあんたを助ける。それで文句あるか?」
文句があるかだって・・・ありまくりだ。
でも、きっと・・・何を言おうとも身を引くとは思えない。
心の中で小さな溜息をつき、最大限の譲歩をすることにした。
「できるだけ大聖堂の隅で出来る限りの防御魔法を張っていてください。」
「ヤバくなったら助けてもいいんだよな?」
「ダメです。私が負けるようなことがあれば、すぐに逃げなさい。」
「・・・了解した。」
最後の言葉はとても了解してくれているようには感じられなかったが、それでもこれ以上言っても水掛け論になること必須なので、シルフィリアはそれ以上何も反論しようとはしなかった。
部屋の隅で、サーラが『白鳳ノ護(ホーリー・スフィア)』と唱え、自身とファルカスとロビンを包み込む半球状の守護壁を張る。
それを見て、シルフィリアも戦闘態勢へと移行した。
腰に手を掛ける。
そして、抜く。
炎の魔剣「レーヴァテイン」を。
このとき、シルフィリアはもはや勝とうとは考えていなかった。
とにかく今は隙を見て逃げるしかない。だが、その前にファルカスとサーラとロビンの3人をここから遠ざけ、そして、せめて一撃でもシュピアに傷を負わせる。
そして、一旦引いて、なんとか攻略法を考える。
それが今の最善の選択だ。
そして、現段階でエクスカリバーと対等に戦える可能性のある武器と言ったらこれしかない。炎の魔剣レーヴァテイン。邪神ロキが作りし、究極の魔剣。
こんなことになるんだったらサーラ相手に無茶をしてヒビなんて入れなければよかった。
本当に・・・
今日は後悔してばかりだ。。
大きく深呼吸をしてから剣を構え、静かに体を揺らした。
シュピアも静かにエクスカリバーを構えた。
そして・・・
先にシルフィリアが仕掛ける。
残っている魔力をすべて運動能力向上に回しての一切の迷いのない直線跳躍。
そして、シュピアを自身の間合いに入れた瞬間・・・
その体めがけて一気に突く。
が・・・
タイミングは完璧だったし、スピードもそこそこを誇っていたのにも関わらず、シュピアが余裕でその剣を止める。
自然とレーヴァテインとエクスカリバーが鍔迫り合いする形となり、2つの剣の交差したところから激しい火花が散った。
と同時に・・・
―ビシッ―
レーヴァテインの亀裂がさらに広がる。慌てて後ろに跳び、空中で体を捻り、再び地に足を付け、構えるシルフィリア。
長くは持たない・・・か・・・
レーヴァテインを中段に構え直し、一気に距離を詰めて掬い上げるようにシュピアに斬りかかる。が、シュピアは上から斬りかかるようにしてそれを受け止める。
エクスカリバーは持つだけで天才的な剣技を身につけると言うが・・・
どうやら本当らしい。
だた、ひとつだけ分かったことがある。
シュピアはエクスカリバーを使いこなせてはいない。もし、完璧に使えるのなら、今の一撃で負けが決まっていたはずだ。
その後も2合、3合と撃ち合い、その度にレーヴァテインの罅は創大していく。
もって、後10合程度・・・
そう考えたシルフィリアは静かに運動能力を落とし、腕への負担が相当なものになることを覚悟して剣の構えを片手持ちに変える。流れるように空いた方の手へ魔力を集中させ・・・
(『雷の槍(ランシア・デルツォーノ)』)
無詠唱で呪文を完成させる。
後はレーヴァテインが砕け散る瞬間にこれを相手の体めがけてぶつけるだけ。
それで終わる。
シルフィリアが策を巡らせている間にも3合、4合と剣撃は重なって行く。その度に飛び散るレーヴァテインの破片。
後、5合
後、4合
後、3合
・・・・・・
「シルフィリア・・・」
後2合と迫った所でシュピアが静かに唱える。
「エクスカリバーを持つと・・・どうやら頭も冴えるらしい・・・」
何を言っているのだろう。
そう思い、最後の1合を打ち合わせた時・・・
シルフィリアの視界にあるモノが入った。
後ろに居たクロノとリオン。ノーマークだった2人がその手にナイフを持ち、インフィニットオルガンの鍵として自由を奪われていたオボロとハクを攻撃しようとしているのだ。
苦しみながらガラス球の中で眠り続ける2匹を・・・
そちらに気を取られた瞬間・・・
レーヴァテインがついに耐えきれなくなり、砕け散る。
最悪!!!
一番重要な場面で気を散らすなんて・・・
普段なら絶対にしないはずなのに・・・
その後はまるでスローモーションの世界。
砕け散ったレーヴァテインに驚き僅かに剣を引いた隙に、エクスカリバーが上段から振り下ろされ・・・
信じられない程の痛みがシルフィリアの全身を貫いた。
同時に自身の体から溢れだす真っ赤な発光液体。
人間ではあり得ない・・・光輝く特有の血液。
そして、それが抜けると同時に・・・どんどん体から温かさが抜けていく。
傷の痛みが段々と自分が受けた傷の重さを理解させる。
肩口から袈裟に斬られた。
そのまま地面にうつ伏せに倒れこむ。
まずい・・・このままじゃ出血量が増えるばかり・・・少しでも減らすために仰向けになりたいが、すでに冷たくなってきた体がそれを許してくれない。
このままじゃ・・・
ダメ・・・目が霞む・・・。
霞むだけじゃない。まるで一気に日を暮れさせたように周りが見えなくなっていく。
何で暗くなるの・・・
勘弁してよ!!!
「これで・・・終わりだ。」
頭上から降り注ぐシュピアの声。
まずい・・・逃げなきゃ・・・
そう思った瞬間・・・完全に目が見えなくなる。
なんでこんなに暗いの・・・
まだ私には・・・やらなきゃらないことが・・・
頭上でガキンッという音が響いた。
「サーラ!!!防御!!!」
『円形防護壁(ラウンド・シールド)』
「よし!!一時的に撤退するぞ!!!」
「えぇ!!!?でもファル!!!」
「シルフィリアが負けた時点で俺達に対抗する手立ては無い!!!一時的に身を引いて戦略を立て直す!!!」
「わ・・・わかった。」
「ロビン!!!手を貸せ!!!シルフィリアを運ぶぞ!!!」
「は・・・はい・・・」
真っ暗な闇の中でそんな会話だけが聞こえた。
その後、体が持ち上げられ、どこかに運ばれる。
その途中で・・・
なんとか繋ぎとめていた意識フッ消える。
このまま死ぬのかな・・・
静かにそんな想像が頭をよぎった。
ただ、死のうが生きようが、これだけはハッキリとした事実だった。
自分は・・・シュピアに・・・・
負けたのだ。
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